NZ旅行(3日目ー②)涙のホビット村
ご無沙汰しておりました。前回の更新から実に1年以上。
いつかNZに行く人のために、
指輪物語が最近恋しくなってきた人のために、
これから中つ国にハマる未来のファンのために、
薄れる記憶をもとに、旅の記録を残す。
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ついにホビット村へ足を踏み入れた。まずは、ビルボが走り出す道を通過。
うおおおおおここ見たことあるぞおおおおおおお!!!という、この先何度も味わうことになる感動に身を震わせる。
逸る気持ちが抑えられない。
道を抜ければ、夢にまで見たホビット村が広がっているのだ。
ちなみに前回の記事から、この写真まで、一枚も写真がない。
ホビトンの入り口も、受付も、休憩所も、観光地っぽいところをたくさん通過した。
でも一枚も撮っていない。
実はこの英語ツアー、ホビット村付近に着いてすぐに、新しいガイドが加わった。
20代後半くらいの、明らかに陽キャなお兄さん。このお兄さんがメインで案内してくれるらしい。
まだセットに足を踏み入れていないのに、お兄さんはすでに興奮していた。
みんなにいろんなことを話したくて仕方ない様子だった。
私はあのお兄さんほど、楽しそうに解説する人を見たことがない。
きっと本当に心の底から中つ国が好きで、ホビット村で働いていることに喜びを感じているんだろう。
自分の日本での生活を省みながら、ああいう生き方をしたら、人は長生きできるんだろうなと思った。
しかし、キラキラお兄さんには、ひとつ大きな問題があった。
恐ろしく早口で、何を言ってるのか、本当に分からなかったのだ。
私でも、バスのおじさんの英語は、かろうじで聞き取れた。
会話はできなくとも、今なんの話をしていて、自分が何を求められているのかが、僅かながらに分かった。
でもこのお兄さんは違う。
映画セットの入り口で話しているのだから、話す内容は入る前の注意点とか、今後のスケジュールとか、映画のちょっとした知識だろう。
そこまで予想できるのに、頭をフル回転させても、何を言っているのかわからなかった。
唯一まともに聞き取れたのは、いざ入園!となったときに、お兄さんに個人的に話しかけられた一言だった。
「Do you like the lord of the rings?」
満面の笑みを浮かべる彼に「ヒイェア」と中途半端な言語を返し、ホビット村へと進んだ。
頭は疲労困憊。写真は、一枚も撮っていなかった。
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石垣の道を抜けると、映画で見た世界がそのまま広がっていた。
ツアー参加者、13人くらい。ガイドを先頭に、みんなでゆるりと敷地内を歩いて行く。
ホビット村が目の前に存在していることはもちろんだが、20年前の映画のセットが、今なお綺麗に整備されて残っていることに感動を覚える。
突き抜けるような青空に、緑がキラキラしていた。
ホビットの家の丸いドアが、鮮やかな色を発して浮かんでいる。
風が吹いて、木々が揺れていた。
脳内では「The Shire」が流れている。人知れず、鼻歌も歌った。
ついに到着した。ビルボの家。
(ひええええええそのまんま!!!!!!)と心の中で叫ぶ。
そうそうこれ、この張り紙を見に来たのだ。
こういうディテールが残っているの、非常にテンションが上がる。
冒頭とは打って変わって、写真もたくさん撮った。
この辺りから、知らない外国人に写真をお願いできるようになった。
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13歳の時に初めて指輪物語を読んだ私は、レゴラスとアラゴルンに夢中だった。
映画の好きな場面は、ペレンノールとモリア。戦闘シーンを擦り切れるほど見た。
しかし大学生になって映画を全て見返すと、不思議な現象が起こった。
ホビットが登場するところで涙が出るのだ。
ホビット庄が映って泣く。
メリピピがいたずらするところで泣く。
(飛行機で号泣したのは過去記事参照)
大人になって心がどう成長してしまったのか分からないけど、とにかくホビットが登場するシーンでことごとく涙腺がやられるのだ。
しばらくその感情に理由が見つからなかったが、その数年後に原作を再読して、ようやくわかったことがある。
13歳の私には、なぜホビットが指輪を捨てに行ったのかを説明できなかった。
でも大人になっていろんな感情が理解できるようになった時に、ホビットだからこそ指輪を捨てることができたんだと分かった。
ホビットの無欲さ、おだやかさ、純真さ、かと思えば原作フロドのように高貴さを纏うこともある。
そうした中にある強さと美しさが見えた時に、私は泣くようになってしまったらしい。
何が言いたいかというと、NZの観光地で普通に泣いた。
興奮して泣いたんじゃなくて、自然に涙が出た。
NZに行きたいと願った15年分の重みはでかかった。
早口お兄さんの英語を遠くの方で聞きつつ、誰にも悟られないよう静かに泣いた。